「な、泣い、てるのか」
たまたま通りかかった雷市、もとい、ここは雷市と私の家があるアパートの前の植え込みなので、たまたまも何もないが、とにかくタイミング悪く雷市がやってきた。
「別に」
泣いているともいないとも言いたくなくて、ぶっきらぼうに言い放つ。世の中には理不尽なことがたくさんあって、その口惜しさをぶつける先もなくって、ただ、座り込んでいただけだ。
私のかまうなオーラを一切無視して、雷市は隣に座った。隣というには少し離れている。ギリギリ声が聞こえるくらいの二人分くらい空けた距離だ。
「そ、そうか」
何に納得したのか、雷市はそう言うと、うんうんと頷いたり、上を見上げたりと落ち着きがない。
雷市を見てるとふてくされている自分がバカバカしくなってきた。それでも気は晴れないし、できれば雷市には早くこの場を去ってほしい。
そう思った、矢先。
雷市の手が私の頭に伸ばされた。少し離れた距離で座っていたせいか、伸ばされた手は届ききらなくて、中指と人差指、薬指の三本の指先だけが触れた。そして、ゆっくりと、その指先で私のこめかみのあたりをなでた。雷市は前を向いたまま、腕は伸ばし切ったせいかプルプルと震えている。それでもゆっくりと私の頭をなでる指は止まらない。
その純粋なやさしさに、こらえていた涙がこぼれた。
「す、す、好きなだけ、泣いていいぞ」
絞り出したように言う雷市に私は返事をせずにただ頷いた。
ちゃんと手のひらで頭をなでられていたら、雷市の分際で何様よと怒っていたかもしれない。ギリギリのところで伸ばされたやさしさだからこそ私の頑なに泣くまいとしていた心はほぐされた。
「ありがと」
辛うじて出た私の言葉に雷市は前を向いたまま、頷いて、そのまま腕がつるまでなで続けてくれた。
20140613ブログより転載