夏まで待てない


いつもタイミングよく現れるのが不思議だった。
今もそう。振り返れば原田くんが立っている。
さっき先生から大量の資料を進路指導室に持って行けって押し付けられた。重いなぁって思ってたら、後ろから原田くんに声をかけられたのだ。
「大量だな」
私の持っていた資料に手をのばす。
持とうか、なんて聞かない。当然の様に持ってくれようとする。
そういうことがあまりに回数が多くて、何だか申し訳なくなってくる。
私にとってはラッキーだけど、原田くん的にはツイてないわけだし。
「大丈夫、何かいつも原田くんに迷惑かけてるっぽいし」
「そうか?」
大丈夫、と言ったものの、すでに私の手には資料はない。
「困ってるといつも原田くんが助けてくれるもん」
「そりゃぁ、下心あるからな」
さらりと言われた言葉に驚いて立ち止まる。私が立ち止まったことに一歩だけ進んで気付いた原田くんは、そこで止まった。
「何だ、気付いてなかったのか」
原田くんは驚いて呆れた様に私を見た。
「…タイミングいいなぁ、くらいにしか思ってなかったから」
「そうか」
気付いてて当然だったんだろうか。そうなると気付いていなかった自分がいたたまれない。顔が赤くなっているのは、原田くんの好意を知ったからか、自分の鈍さが恥ずかしいのか。そんな私の様子に原田くんは言った。
「今の忘れてくれ」
「え?」
原田くんは資料を抱えなおして、私を正面から見た。
「甲子園決めて、カッコ良く告るからよ」
まっすぐな視線は外せないくらいに熱くて、胸がぎゅっとつかまれた。
「に…二回もこんなの無理だよ」
「だから、忘れとけって。だいたい予選まだ始まってねぇし」
ちょっと自嘲気味につぶやくと、原田くんは進路指導室へと歩いて行ってしまった。

予選始まってないって、じゃあ私はいつまで、こんな気持ちで原田くんを見てなきゃいけないの。この状態で放置されるのはあんまりじゃない?
忘れろって言ったことを取り消してもらおうと、大きな背中を追いかけた。
だって、一度で十分だから。

20140414ブログより転載 (鳴夢"ゆさぶって"とリンク)