太陽のジェラシー 5話


 空を見上げる。吸い込まれそうな青空に気分も上がる。心が躍るってこういうことを言うんだと思う。

「今日はちゃんと捕ってよ」
「うるせぇやつだな」

 稲実に来てからバッテリーを組んでいる雅さんを見上げると、腕を組み眉をむっと寄せている。こんなにいい天気なんだし、もっとさわやかな顔をしたらいいのに。似合わないけど。

「オレの高校デビューだからね、目指せ、完投完封!」

 イエーと高らかに左手を突き上げる。雅さんが何か言ってくるかと思ったのに、雅さんは何かに釘づけになっている。その視線の先を追って納得した。一際目を引く華やかな集団がやってきたのだ。その中の一人がオレを目ざとくみつけて、こちらを指さす。その様子にびっくりしている雅さんを尻目に大きく手をふった。それに気づいてみんながこっちへと急いでやってくる。

「鳴ちゃーん」
「何だ、いったい」

 黄色い声に驚いて、絞り出すように雅さんがつぶやいた。そうか、雅さん初めてか。

「オレの姉ちゃんたちと隣ん家の姉ちゃんたち」

 みんなかわいいでしょと誇らしげに付け足すと、雅さんは、うっと呻いて一歩退いた。雅さんは男兄弟って言ってたことを思い出した。もしかしたら、女の集団は苦手かもしれない。この後のやり取りはだいたい想像がつくので、雅さんのことがちょっとだけ、心配になる。大丈夫かな〜。

「鳴ちゃん、元気だった?」
「鳴ちゃん、背伸びた?」
「鳴ちゃん、ちゃんとご飯食べてる?」
「鳴ちゃん、寂しくなかった?」

 姉ちゃんたちはオレを取り囲むと、背伸びしてまでオレの頭をなでたり、ハグしたり、思い思い話し出す。それに順番に応えると、姉ちゃんたちは満足したのか、隣の雅さんに視線を移した。頑張れ、雅さん。オレと組む限り逃れられないことだから。

「オレとバッテリー組んでる雅さんね」

 それだけ言ってあとは放っておく。姉ちゃんたちは雅さんを取り囲んで、鳴がお世話になってますとか、わがままでこまってませんかとか、柔らかくも、勢いよくまくしたてる。それに雅さんはしどろもどろになって何とか答えている。うーん、おもしろいなぁ。しばらくこれでからかえるかも。

 ユニホームの脇を少し引っ張られた。だ。姉ちゃんたちと雅さんから視線をに移す。いつも姉ちゃんたちから一歩引いたところにはいる。姉ちゃんたちが一頻りオレをかまった後にこうしてユニホームを引っ張ってくる。こういうところは小さいころから変わってない。遠慮がちに引っ張られる感覚にオレはいつも、はかわいいなと思う。

「鳴ちゃん、頑張ってね」

 久々に見るはちょっと新鮮だった。姉ちゃんたちはいつもと変わんないのに、だけは何か違う。何が違うんだろうな。いつものようにオレのユニホームをつまんだまんま、ただ笑ってる。その顔に何かに追い立てられるように心が熱を帯びてきて、落ち着かない。試合前の高揚感だけじゃない感じがする。

「任せて、勝つから」

 帽子をきゅっと深くかぶる。誰よりも一番のオレをにしっかり見せないと。オレの気負った言葉にもは、無邪気に笑った。そう、この笑顔こそオレが野球するために必要なものだ。入ったばかりの一年ピッチャーがBチームで投げることの意味とか監督の意図とか、まだ早いんじゃないかとか、きっと洗礼受けるとか、そんなこと何も知らないわからない、ただオレが活躍することだけを信じてる笑顔。それが何よりもオレの力になる。

「カッコいいとこ見せるからね」

 拳をあげて、にかっと笑えば、はオレが望んだ笑顔で大きくうんと頷いた。



 * 6


20160414