太陽のジェラシー 3話


 一也との電話を切って、ごろっとベッドに転がった。

「誰と電話してたの」

 その声にベッドから体を起こす。同室でシニアでも先輩だった、翼くんが机から振り向いた。机の上には教科書とノートが開かれている。ベッドの上にいたから翼くんが勉強していることに気づいてなかった。新学期が始まったところなのに、もう勉強するなんて、オレには真似できない。

「あ、うるさかった?」
「いや、オレは平気な方だし」

 そう言って、首にかかっているイヤホンを掲げてみせた。さっきまでイヤホンで音楽を聴きながら勉強していたらしい。寮生活では必須アイテムなんだろう。

「江戸川にいた御幸一也って覚えてる?」
「あぁ、センスいいちびっこいキャッチャー?」
「もうアイツ、オレより育っちゃったけどね」

 最初に出会ったころはオレの方が少しでかかったのに、中学三年になって抜かれてしまった。抜かれたと知ったときの口惜しさがよみがえって、むっとしてしまう。

「どこ行ったの」
「青道。と同じクラスになったって」
「えっ、ちゃん、うちに来てないの?!」

 同じチームだった翼くんはのことも知っている。一也のことよりもことが気になったらしい。

「言ってなかったっけ」
「聞いてないよ」
「インフルで稲実落ちてさー」
「何だ、残念だな。でも鳴が入ったから、またお姉さんたちには応援してもらえるな」

 翼くんはちょっと残念そうにしつつも、姉ちゃんたちの応援を期待して目を細めた。それも当然だろう。オレの姉ちゃんたちは弟のオレが言うのもなんだけど、かわいい。の姉ちゃんたちもかわいい。かわいいし、やさしいし、何でも言うこときいてくれるし、最高の姉ちゃんたちだ。

「姉ちゃんたちは応援くるってば。もオレの応援くるにきまってんじゃん」
「青道と当らなきゃだろ」
「青道と当っても!」

 そりゃないだろと翼くんは苦笑する。けれど、にとってオレ以上に優先すべきことなんてないってことをオレは知っている。ちょっと学校が別れたからって、その自信はゆらぐことはない。それくらいオレはの前で、いつだって、誰よりも何よりも一番でいたのだから。

 だから一也に釘をさしたのだって、念のためだ。からのメールに「一也くんと同じクラスでよかった」の一言があったからだ。たぶん、深い意味はない。のことだから、本当にただ知ってるヤツがいてうれしいって程度のはずだ。それでもムカついた。まだ入学初日なのに。春休み中ずっと、どうしようどうしよう鳴ちゃんがいないなんてどうしようってあんなに不安がってたのに。ちょっと知ってるヤツがいただけでこれだ。あのバカ。

「ぜってぇー負けねぇ」

 思わず出た言葉に翼くんはただ笑った。

 そう、絶対に負けるもんか。いや、勝つにきまってるけど、一也に勝機の一つもないけど。それ以前に一也がに興味を持つなんて思えないし、挑んでくるとも思ってないけど。

 ただオレ自身が、我慢できないだけだ。少しよそ見されるだけでもこんなにも我慢できないなんて思ってもみなかった。そんな暇も気持ちにもなれないくらい、自分だけのものにしてみせる。今までそれを疑ったこともなかったけれど、たった些細な一言がきっかけでオレの胸に初めて何か熱いものが駆け抜けた。



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20151225