それは本当に偶然の出来事だった。
廊下で野球部の奴らと立ち話してた時、オレが一歩、何気なくさがった。すると、トンと小さな衝撃を背中に感じた。何かにぶつかったのかと思って振り向くと、しりもちをついているがいた。しりもちつくほど強い力で当たったつもりはなかったから少し驚いた。
「大丈夫か?」
は顔を赤くして立てていたひざを慌てて、床にこすり付けるように下ろした。残念ながら、上から見てる分にはスカートの中は見えなかった。けれどそんなことわざわざ申告する必要もないから何も言わなかった。でもよく考えたら見てないのに見たと思われてるのは損した気分がする。
「平気」
立とうとするに反射的に助けようと手を出した。その腕をつかんで驚いた。
細っけぇぇ…けど、柔らけぇぇ…
簡単に親指と人差し指がまわるくらいしかない太さなのに、柔らかい。あまり力を入れずに引っ張り上げて、今度はその軽さに驚く。
壊れる、と思った。
「うぉっ」
「えっ」
オレの変な反応には目をまるくする。手を離さないと、と思いながらも、この手を離すことがあまりにももったいないような気がして、それができない。本能がこの手を離すことを拒否している。そして、そのままの目に吸い込まれたように動けない。
「伊佐敷くん?」
「…痛ぇっ」
突然腕に痛みが走ったと思ったら、亮介がオレの腕をビシッ!と払い落としていた。
「いつまでそうしてんの」
亮介はやーらし、と蔑むようにオレを見る。オレの方が背が高いはずなのに、見下ろされている気がするのは何故だ。
「が困ってるでしょ?」
「…悪ぃ」
もちろん謝罪はに。は首をふるふると横にふった。そんなに首をふったら、頭がもげて飛んでいくんじゃないかと心配になる。それくらい細い首。
「ううん、平気。ありがと」
はスカートの裾を少し気にして、そう言うと、じゃあ、と友達のところへと駆けていく。その後姿に心拍数が上がってく。
「純?」
「亮介よ〜、あれ、いいのか?」
「あれ?」
の後姿から目を離せないまま、亮介に問いかける。
「あんな…生きもん、いていいのかよ…」
「それ、どうとったらいいのか微妙なんだけど」
亮介はクスクスと笑う。
「どうって、どういう意味だよ?」
「ん?んー、自分で考えなよ」
「わかんねぇから聞いてんじゃねぇかよ」
ガシガシと頭をかいて、教室の中へと戻る。自分の中に宿った、妙にくすぐったくて居心地が悪いのにほんのりと温かい気持ちにとまどいながら…
* 2
雄叫び系お題より 「嗚呼-argh」
20070514